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【良性肺疾患グループ】基礎研究

 

Ⅰ.動物モデルによる慢性気道炎症性疾患(喘息,COPD),肺線維症の研究
 近年の分子生物学の進歩は著しく,呼吸器疾患においても例外ではありません。例えば重症喘息においては抗IgE抗体,抗IL-5抗体,抗IL-5Rα抗体,抗IL-4/13Rα抗体が2019年4月までに認可されており,治療成績は格段に向上しています。
 しかし,これらの薬剤でも十分なコントロールが得られない気管支喘息症例が存在します。また慢性閉塞性肺疾患,肺線維症では症状の改善,進行の抑制を目的とした治療が開発されてきていますが,いまだ根治的な治療法がないのが現状です。
 良性肺疾患グループはこれらの疾患における免疫系のメカニズムに着目し,下記のような動物モデル(マウスモデル)を用いた研究を行っています。遺伝子改変マウスや中和抗体を用いた研究,および免疫細胞についてフローサイトメトリーを用いた詳細な解析などを行うことで,その疾患の病態解明や新たな治療法開発に取り組んでいます。

良性肺グループ研究風景1

 

1.喘息モデル
 我が国において,気管支喘息を含むアレルギー性疾患は増加傾向にあります。2014年にはアレルギー対策基本法が施行され,国としてもアレルギー疾患対策や研究に力を入れようとしています。かつて気管支喘息は年間1万人を超える患者さんが亡くなっていましたが,近年の医学の進歩により治療は劇的によくなり、喘息死は年間2000人を切るレベルまで低下しました。しかし既存治療でも十分な治療効果が得られない症例も中には存在します。
 当グループでは喘息の発症メカニズムに着目し,研究成果を報告してきました。最近では難治性喘息症例に対する新規治療について動物モデルを用いて検討しています。

1) 卵白アルブミン(ovalbumin:OVA)モデル
 OVAを全身的に感作させ,次いで経気道的に曝露させることによりアレルギー性気道炎症が発現し,気道過敏性が亢進することが知られています。このモデルでは気道過敏性の亢進とTh2優位の気道炎症が誘導され,肺組織では喘息に特徴的な病理学的所見(気道壁の肥厚,炎症細胞浸潤,気道上皮のPAS陽性杯細胞の増加)が観察されます。
 また,一連の感作・曝露の6週間後にはアレルギー性気道炎症は抑えられますが,OVA抗原で再曝露を行うと48時間後にはアレルギー性気道炎症の再増悪,気道過敏性の再亢進が認められます(既発症喘息provocation[誘発]モデル)。
 気道炎症や気道過敏性の成立メカニズムは大変複雑で,まだわかっていない点も多くあります。当グループは,これまでにエフェクター(CD8)T細胞,HGF,ロイコトリエンB4(LTB4),終末糖化産物受容体(RAGE)などが気道炎症,気道過敏性に重要な役割を果たしていることを報告してきました [1-9]。
 最近では,当大学薬学部(岡山大学大学院 合成医薬品開発学分野 准教授)の加来田博貴先生らのグループとの共同研究により,新規RXRパーシャルアゴニスト(NEt-4IB:6-[ethyl-(4-isobutoxy-3-isopropylphenyl)amino]pyridine-3-carboxylic acid)が気道過敏性及びTh2気道炎症を優位に抑制することを見出しました[10]。今後,難治性喘息に対する新たな治療薬の候補となることが期待されます。

2) ダニ(house dust mite: HDM)モデル
 ダニの中でもチリダニ(house dust mite:HDM)は家屋内に最も多く生息する種類であり,ヒトの喘息のアレルゲンとして重要です。喘息のマウスモデルとしてHDMに対して感作・暴露させたものが多くの実験で用いられるようになり,当グループでもHDMモデルを確立しました。HDMの点鼻投与(または気管内投与)により経気道的感作・曝露を行うことにより作製します。
 2019年には神経ペプチドY(neuropeptide Y:NPY)の免疫系に対する作用に着目し,,HDMモデルにおけるNPYの役割を検討し,NPYがTh2サイトカインを介して喘息の病態に関わっていることおよびNPY受容体(Y1受容体)拮抗薬の治療効果について報告しました[11]。

3) リモデリングモデル
 OVAやHDMをある程度の長期間,継続曝露させることで気道リモデリングが形成されます。当グループはOVAを用いたリモデリングモデルにより,アレルギー性気道炎症および気道リモデリングの機序の解明と薬剤の治療効果について報告しています[12-13]。

4) 喘息・COPDオーバーラップ症候群(ACOS)モデル
 OVAによる喘息モデルと後述のエラスターゼ誘導肺気腫モデルとを組み合わせることによりACOSモデルを作製し,喘息治療薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬により喘息の表現型だけでなく気腫化も抑えられることを報告しています[14]。

 

2.COPD(慢性閉塞性肺疾患)モデル
 COPDは非可逆的な気流閉塞に特徴づけられる呼吸器疾患で,原因として喫煙,大気汚染などが指摘されています。我が国において約530万人が罹患していると推計されており(2001年,NICE study),2017年には年間18,523人が命を落としています。禁煙,抗コリン薬に代表される気管支拡張薬,リハビリテーションなどで治療しますが,根治的な治療法は確立しておらず,一度破壊された肺胞構造を元に戻すことはできません。また禁煙後も肺胞構造の破壊が進行していくことが報告されており,未解明の部分がいまだ多い疾患です。
 COPDにおける気道炎症の存在に注目が集まっており,当グループでは大きく分けて以下の2種類の動物モデルを用いて研究しています。

・エラスターゼモデル
 マウスなどに豚膵エラスターゼであるPPE(porcine pancreatic peptide: PPE)を経気管的に投与することにより作製します。1回のPPE投与後3週間で強い気腫化が誘導されます。私たちは主にこのモデルを用いることにより,これまでにIL-17やIL-23,終末糖化産物受容体(receptor of advanced glycation end product: RAGE)がCOPDにおける気道炎症や気腫化の機序に重要な役割を果たしていることや抗体治療として臨床応用の可能性を報告しています[15-17]。

・タバコ抽出液(cigarette smoke extract:CSE)モデル
 我が国においてCOPD発症の一番の原因とされるのは喫煙ですが,近年タバコを用いたCOPDモデルが数多くの研究グループにより作製されています。当グループではタバコ抽出液をマウスに腹腔内投与することによりCOPDモデルを作成しています。2019年には上述のRXRパーシャルアゴニストであるNet-4IB投与によりCSEによって誘導される気腫化が抑制されること,上述のエラスターゼモデルで気道炎症が抑制されることを報告しました[18]。

 

3.肺線維症モデル
 肺線維症は慢性進行性の肺の線維化を特徴とした疾患で,その中でも特発性肺線維症は生存期間中央値が約2-5年と短い予後不良な疾患です。ピルフェニドン,ニンテダニブといった抗線維化薬の登場によって予後は以前より改善していると言われていますが,いまだ根治不能な疾患です。
 発症メカニズムとして近年では上皮細胞の障害および修復機構の異常が着目されていますが,免疫系の関与についていまだ不明な点が多く,現在当グループでは免疫系に着眼点を置いて研究を行っています。

・ブレオマイシンモデル
 ブレオマイシンを経気道的に投与することにより肺線維症が誘発されます。私たちは肺線維症モデルにおける免疫系の役割に着目し,その病態解明や新たな治療戦略に結び付けるべく研究を行っています。

・肺線維症急性増悪モデル
 特発性肺線維症の死因の約4割が急性増悪であると報告されています。急性増悪に対する治療選択肢は少なく死亡率も高い病態であるため,新たな治療戦略が求められています。上述のブレオマイシンモデルにリポポリサッカライドを経気道投与することで急性増悪モデルを作成し,新規治療の可能性について検討しています。

 

<発表論文>
[1] Am J Respir Crit Care Med. 2001,15;164:2229-38
[2] J Immunol.2002,15;169:4190-7
[3] J Immunol.2004,172:2549-58
[4] Nature Med.2004,10:865-9
[5] Allergy. 2007,62:415-22
[6] Int Arch Allergy Immunol 2008,145: 324-39
[7] Am J Respir Cell Mol Biol. 2009,40:672-82
[8] Am J Respir Cell Mol Biol 2011,45:851-7
[9] Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2015,309: L789-800
[10] Respir Res 2017,18:23
[11] Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2019,316:L407-17
[12] Am J Respir Cell Mol Biol 2006,35:366-77
[13] Am J Respir Cell Mol Biol 2005,32:268-80
[14] Am J Respir Cell Mol Biol 2014;50:18-29
[15] Respir Res 2013,20;14:5
[16] Am J Respir Cell Mol Biol 2015,52:482-91
[17] Am J Respir Cell Mol Biol 2016,55:697-707
[18] Respir Res 2019;20:2