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分子標的治療

分子標的治療とは

 分子標的治療薬とは、がんだけに発現する分子や正常細胞に比べて著しく多く発現している分子を標的とした治療法です。これまでの抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)が、主に細胞分裂時のDNA複製過程を阻害していたため分裂が盛んな正常細胞にも影響が大きかったのに対し、分子標的治療薬は主にがん細胞の細胞増殖シグナルを標的としており、より特異性の高い治療と言えます。悪性疾患を幅広く扱う当科にとって分子標的治療は欠くことのできない分野であり、診療および研究開発において最も力を入れている分野のひとつです。

分子標的治療の光と影

 分子標的治療の最大の特徴は、効く可能性が非常に高いこと・しばしば劇的な治療効果が得られることにあります。時にその効果は劇的で、がんの進行で寝たきりになってしまった患者さんが分子標的治療薬によって元気に日常生活を送るようになった例を何度も経験しています。このように分子標的治療は素晴らしい効果を秘めた治療方法ですが、残念ながらこのような劇的な効果も1年から数年以内に失われてしまうこと(獲得耐性)が大きな問題となっており、この課題をどのように克服するかについて当科では積極的に取り組んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当科の分子標的治療への取り組み

 当科での分子標的治療の取り組みの最も大きな特徴は、基礎研究と臨床研究が密接に連動していることです。後述しますように、基礎研究で得られた知見に基づいた臨床研究を行い、逆に臨床現場で生じた疑問から新たな基礎研究を行うなど、基礎と臨床が有機的に重なり合った取り組みが特徴です。 特に肺がんを中心とした固形がんに対する分子標的治療の研究は基礎研究・臨床研究において、15年以上にわたって行っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

for the Patients

 しばしば分子標的治療の効果は劇的です。しかしこれら劇的な効果を患者さんに届けるにはそれぞれの患者さんのがんが持つ分子標的(遺伝子変異)の存在を突き止める必要があります。このためには、ためには、遺伝子変異検査のための系統だった組織検体処理・網羅的遺伝子解析が必須となります。当科では、バイオバンクへの検体保存・ゲノム医療総合推進センターとの連携による遺伝子パネル解析などを通し、現在だけでなく将来的に治療可能性のある分子標的を網羅的に解析し、分子標的治療が効くべく患者さんを一人も見逃さないことを最重視しています。

for the Medicine

 基礎研究・臨床研究の両面からのアプローチ(トランスレーショナル研究)により新たな分子標的治療の開発に力を入れています。

(当科でのトランスレーショナル研究の例)

for the Society

 ゲノム医療の発展とともに分子標的治療は今後ますます発展していきます。しかし、分子標的治療を扱うには、分子生物学的における高度な専門知識と患者さんの全身状態に適切に対応する幅広いジェネラリストとしての高度な能力を同時に求められます。このように分子標的治療を正しく扱える医師の育成は社会にとって非常に重要な課題です。当科では、がん診療を志す若手医師の育成に特に力を入れており、若手医師による各種学会での発表促進、腫瘍セミナーの開催など積極的な活動をおこなっております。これらの活動のため、例えば岡山県のがん薬物療法専門医の7割以上が当科出身の医師です。