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【良性肺疾患グループ】基礎研究―喘息―

 

1.喘息モデル
 我が国において,気管支喘息を含むアレルギー性疾患は増加傾向にあります。2014年にはアレルギー対策基本法が施行され,国としてもアレルギー疾患対策や研究に力を入れようとしています。かつて気管支喘息は年間1万人を超える患者さんが亡くなっていましたが,近年の医学の進歩により治療は劇的によくなり、喘息死は年間2000人を切るレベルまで低下しました。しかし既存治療でも十分な治療効果が得られない症例も中には存在します。
 当グループでは喘息の発症メカニズムに着目し,研究成果を報告してきました。最近では難治性喘息症例に対する新規治療について動物モデルを用いて検討しています。

1) 卵白アルブミン(ovalbumin:OVA)モデル
 OVAを全身的に感作させ,次いで経気道的に曝露させることによりアレルギー性気道炎症が発現し,気道過敏性が亢進することが知られています。このモデルでは気道過敏性の亢進とTh2優位の気道炎症が誘導され,肺組織では喘息に特徴的な病理学的所見(気道壁の肥厚,炎症細胞浸潤,気道上皮のPAS陽性杯細胞の増加)が観察されます。
 また,一連の感作・曝露の6週間後にはアレルギー性気道炎症は抑えられますが,OVA抗原で再曝露を行うと48時間後にはアレルギー性気道炎症の再増悪,気道過敏性の再亢進が認められます(既発症喘息provocation[誘発]モデル)。
 気道炎症や気道過敏性の成立メカニズムは大変複雑で,まだわかっていない点も多くあります。当グループは,これまでにエフェクター(CD8)T細胞,HGF,ロイコトリエンB4(LTB4),終末糖化産物受容体(RAGE)などが気道炎症,気道過敏性に重要な役割を果たしていることを報告してきました [1-9]。
 最近では,当大学薬学部(岡山大学大学院 合成医薬品開発学分野 准教授)の加来田博貴先生らのグループとの共同研究により,新規RXRパーシャルアゴニスト(NEt-4IB:6-[ethyl-(4-isobutoxy-3-isopropylphenyl)amino]pyridine-3-carboxylic acid)が気道過敏性及びTh2気道炎症を優位に抑制することを見出しました[10]。今後,難治性喘息に対する新たな治療薬の候補となることが期待されます。

2) ダニ(house dust mite: HDM)モデル
 ダニの中でもチリダニ(house dust mite:HDM)は家屋内に最も多く生息する種類であり,ヒトの喘息のアレルゲンとして重要です。喘息のマウスモデルとしてHDMに対して感作・暴露させたものが多くの実験で用いられるようになり,当グループでもHDMモデルを確立しました。HDMの点鼻投与(または気管内投与)により経気道的感作・曝露を行うことにより作製します。
 2019年には神経ペプチドY(neuropeptide Y:NPY)の免疫系に対する作用に着目し,,HDMモデルにおけるNPYの役割を検討し,NPYがTh2サイトカインを介して喘息の病態に関わっていることおよびNPY受容体(Y1受容体)拮抗薬の治療効果について報告しました[11]。

3) リモデリングモデル
 OVAやHDMをある程度の長期間,継続曝露させることで気道リモデリングが形成されます。当グループはOVAを用いたリモデリングモデルにより,アレルギー性気道炎症および気道リモデリングの機序の解明と薬剤の治療効果について報告しています[12-13]。

4) 喘息・COPDオーバーラップ症候群(ACOS)モデル
 OVAによる喘息モデルと後述のエラスターゼ誘導肺気腫モデルとを組み合わせることによりACOSモデルを作製し,喘息治療薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬により喘息の表現型だけでなく気腫化も抑えられることを報告しています[14]。

 

<発表論文>
[1] Am J Respir Crit Care Med. 2001,15;164:2229-38
[2] J Immunol.2002,15;169:4190-7
[3] J Immunol.2004,172:2549-58
[4] Nature Med.2004,10:865-9
[5] Allergy. 2007,62:415-22
[6] Int Arch Allergy Immunol 2008,145: 324-39
[7] Am J Respir Cell Mol Biol. 2009,40:672-82
[8] Am J Respir Cell Mol Biol 2011,45:851-7
[9] Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2015,309: L789-800
[10] Respir Res 2017,18:23
[11] Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2019,316:L407-17
[12] Am J Respir Cell Mol Biol 2006,35:366-77
[13] Am J Respir Cell Mol Biol 2005,32:268-80
[14] Am J Respir Cell Mol Biol 2014;50:18-29
[15] Respir Res 2013,20;14:5
[16] Am J Respir Cell Mol Biol 2015,52:482-91
[17] Am J Respir Cell Mol Biol 2016,55:697-707
[18] Respir Res 2019;20:2