【良性肺疾患グループ】基礎研究

Ⅰ.動物モデルによる慢性気道炎症性疾患(喘息,COPD),肺線維症の研究
 私たちは,主に下記のような動物モデル(マウスモデル)を作製することにより,その疾患の病態解明,新たな治療法開発に取り組んでいます。

1.喘息モデル
1) 卵白アルブミン(ovalbumin:OVA)モデル
 OVAを全身的に感作させ,次いで経気道的に曝露させることによりアレルギー性気道炎症が発現し,気道過敏性が亢進することが知られています。このモデルでは気道過敏性の亢進とTh2優位の気道炎症が誘導され,BALF(気管支肺胞洗浄液)中のIL-4,IL-5,IL-13などTh2サイトカインの上昇が認められるとともに,肺組織では気道壁の肥厚,炎症細胞浸潤,気道上皮のPAS陽性杯細胞の増加が観察されます。また,一連の感作・曝露の6週間後にはBALF中の好酸球数は減少しますが,OVA抗原で再曝露を行うとその6時間後にはBALF中の好中球が増加,さらに48時間後には好酸球の再増加、気道過敏性の再亢進が認められます(既発症喘息provocationモデル)。

既発症喘息provocationモデル1

既発症喘息provocationモデル1
<図1 既発症喘息provocationモデルにおける好中球エラスターゼ阻害薬の効果の検討>

 

 しかし気道炎症や気道過敏性の成立メカニズムは大変複雑で,まだわかっていない点も多くあります。私たちは,これまでにエフェクター(CD8)T細胞,HGF,ロイコトリエンB4(LTB4),終末糖化産物受容体(RAGE)などが気道炎症,気道過敏性に重要な役割を果たしていることを報告してきました。
(Am J Respir Crit Care Med. 2001,15;164(12):2229-38.,J Immunol. 2002,15;169(8):4190-7.,J Immunol. 2004,172:2549-58,Nature Med. 2004,10:865-9,Allergy. 2007,62(4):415-22,Int Arch Allergy Immunol 2008,145: 324-39.,Am J Respir Cell Mol Biol. 2009,40:672-82,Am J Respir Cell Mol Biol 2011,45:851-857.,Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2015,309: L789-800.)。

2) ダニ(house dust mite: HDM)モデル
 ダニの中でもチリダニ(house dust mite:HDM)は家屋内に最も多く生息する種類であり,ヒトの喘息のアレルゲンとして重要です。HDMの点鼻投与(または気管内投与)により経気道的感作・曝露を行うことにより作製します。

3) リモデリングモデル
 OVAやHDMをある程度の長期間,継続曝露させることで気道リモデリングが形成されます。私たちはOVAを用いたリモデリングモデルにより,アレルギー性気道炎症および気道リモデリングの機序の解明と薬剤の治療効果について報告しています(Am J Respir Cell Mol Biol 2006,35:366-377.,Am J Respir Cell Mol Biol 2005,32:268-280.)。

4) 喘息・COPDオーバーラップ症候群(ACOS)モデル
 私たちはOVAによる喘息モデルと後述のエラスターゼ誘導肺気腫モデルとを組み合わせることによりACOSモデルを作製しています(Am J Respir Cell Mol Biol 50:18-29. 2014.)。

ACOSモデル1

ACOSモデル2
<図2 ACOSモデルにおけるモンテルカストの効果の検討>

 

2.COPD(慢性閉塞性肺疾患)モデル
・エラスターゼモデル
 マウスなどに豚膵エラスターゼであるPPE(porcine pancreatic peptide: PPE)を経気管的に投与することにより作製します。1回のPPE投与後3週間で強い気腫化が誘導されます。私たちは主にこのモデルを用いることにより,これまでにIL-17やIL-23,終末糖化産物受容体(receptor of advanced glycation end product: RAGE)がCOPDにおける気道炎症や気腫化の機序に重要な役割を果たしていることや抗体治療として臨床応用の可能性を報告しています(Respir Res 2013,20;14:5.,Am J Respir Cell Mol Biol 2015,52:482-91.,Am J Respir Cell Mol Biol. 2016,55(5):697-707.)。

エラスターゼ誘導肺気腫モデル1

エラスターゼ誘導肺気腫モデル2
<図3 エラスターゼ誘導肺気腫モデルにおけるIL-23の役割の検討>

 

3.肺線維症モデル
・ブレオマイシンモデル
 ブレオマイシンを経気道的投与に,あるいは腹腔内投与することにより肺線維症が誘発されます。

 

 現在取り組んでいるテーマとしては次のようなものがあります。
 ・マウス喘息モデルにおけるNPYの役割の検討
 ・レチノイドX受容体アゴニスト(RXRアゴニスト)の気道炎症・気腫化抑制効果の検討
 RXRアゴニストは動物実験において糖尿病・炎症性疾患に効果を認めるとの報告があります。私たちのグループは,当大学薬学部(岡山大学大学院 合成医薬品開発学分野 准教授)の加来田博貴先生らのグループとの共同研究により,新規RXRパーシャルアゴニスト(NEt-4IB:6-[ethyl-(4-isobutoxy-3-isopropylphenyl)amino]pyridine-3-carboxylic acid)がマウス喘息モデル(OVAモデル)における気道過敏性及びTh2気道炎症を優位に抑制することを見出しました(Respir Res. 18:23, 2017.)。今後,難治性喘息に対する新たな治療薬の候補となることが期待されます。

 

Ⅱ.次世代シーケンサーを用いた特発性肺線維症肺の解析
 特発性肺線維症は原因不明の間質性肺炎で,近年ニンテダニブなどの抗線維化薬が使用できるようになったものの,その治療効果は十分とは言えません。一方で肺癌領域ではドライバー遺伝子を明らにし,その遺伝子を標的とした分子標的薬で治療を行うという個別化医療が進んでおり,非常に高い効果を得ています。特発性肺線維症を含む間質性肺炎と肺癌は高頻度に合併し,ともに増殖性疾患の側面を持つことから,肺癌と同様の戦略が特発性肺線維症においても開発できないかと考え研究を開始しました。現在,特に肺癌の治療ターゲットとなっている受容体型キナーゼを中心として,次世代シーケンサーを用いた解析を行い,治療ターゲットとなる新規分子の探索を試みています。肺組織は多様な細胞を含む為,マイクロダイセクション法を併用し,特定の細胞での遺伝子発現解析も行っています。

 

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