【血液グループ】基礎研究

 同種造血幹細胞移植は、移植片対白血病効果(GVL)により白血病に治癒をもたらす治療法として確立していますが、致死的合併症である移植片対宿主病(GVHD)は今日なお克服すべき課題である。近年、移植前治療として行われる大量抗癌剤や放射線を減量することによって、従来では不可能であった高齢者への移植が可能となっています。加えて、HLA不一致移植の普及に伴い移植件数は年々増加しており、GVHD制御の重要性はさらに高まっています。GVL効果を損なわずに、GVHDをはじめとした移植後合併症をコントロールすることは、移植成績の向上に直結する重要な課題です。我々は 以下にしめす様々なアプローチにより移植後免疫のコントールを試みています。
 1) 移植片対宿主病に対するTH17細胞の役割
 2) 同種造血幹細胞移植後のPD-1経路の役割
 3) 移植片対宿主病に対するインターロイキン23の役割
 4) 同種造血幹細胞移植後肺障害の発症機序
 5) 同種造血幹細胞移植と終末糖化産物受容体(RAGE)の関係
 

1) 移植片対宿主病に対するTH17細胞の役割
 移植後期に発症する慢性GVHDは急性GVHDと発症時期が異なるだけでなく,その病態も異なると考えられています。慢性GVHDは,移植細胞により免疫が再構築される段階で,自己抗原反応性T細胞が出現し自己免疫疾患に類似した臨床像を呈すると想定されています。最近,Th1,Th2細胞に続く第三の免疫担当細胞としてTh17細胞の概念が提唱され,Th17細胞が産生するIL-17と自己免疫疾患との関連が注目されています。 我々はノックアウトマウスを用いた実験により,慢性GVHDにTh17細胞とTh1細胞が関与していることを証明しました。さらに,Th17細胞,Th1細胞を制御する合成レチノイドであるAm80が,マウスモデルにおいて慢性GVHDを抑制することを見出しました(Blood 2012, Nishimori et al)。

 今後はさらなる慢性GVHDのメカニズムを解析していくと同時に,トランスレーショナルリサーチとして、Am80の難治性慢性GVHD患者さんに対する医師主導治験を行い、新規治療方法の確立を目指しています。
 

2) 同種造血幹細胞移植とPD−1経路の役割
 Programmed cell death1 (PD-1)はT細胞などの免疫担当細胞に発現し,そのligand (PD-L1, PD-L2)によって抑制性のシグナルを細胞に伝えることが知られています。PD-L2が樹状細胞,マクロファージになどの細胞にその発現が限られている のに対し,PD-L1は血液細胞および血管内皮細胞,上皮系の細胞に広く分布し,自己免疫疾患においては血液細胞よりも非血液細胞におけるPD-L1の発 現が重要とされています(JEM 2006)。これらの上皮系の細胞に発現する補助シグナルにより自己免疫寛容が誘導されていることが明らかになりつつありますが,同種移植後の免疫寛容成 立へのPD-1経路の関与ははっきりしていません。GVHDで高頻度に傷害される臓器は皮膚,肝臓,消化管であり,組織学的にはリンパ球を中心とする 細胞浸潤,組織の繊維化,上皮細胞の障害を認めます。皮膚はGVHDの標的組織であるため,我々はドナーT細胞の上皮系細胞への障害により免疫寛容がうまく成立しないのではないかと考え研究を進めています。
 

3) 移植片対宿主病に対するインターロイキン23の役割
 慢性GVHDの原因としてTh1とTh17細胞のとの関連が注目されています。その中でも種々の炎症性疾患への関与が指摘されているTh1/Th17陽性細胞に着目しGVHDとの関連を調べています。Th17細胞はnon-pathogenicなTh1-Th17+”classical”細胞とIFN-γ産生性pathogenic Th1+Th17+”alternative”細胞に分類されています。IL23はTh17細胞の分化に関与しており慢性炎症性疾患においてはIL23をブロックすることで疾患の改善が報告されており、慢性GVHDへの効果も期待し研究をすすめております。
 

4) 同種造血幹細胞移植後肺障害の発症機序
 同種造血細胞移植は白血病に対する根本的治療として行われているが,少子高齢化による人口動態の変化により同胞あるいは骨髄バンクに適切なドナーが存在し ない患者が急増しており,ドナー負担のない第三の移植細胞源として臍帯血移植が急速に増加しています。臍帯血移植は,移植の際輸注される細胞が従来の骨髄 移植に比べて少ない利点がありますが,一方生着が遅いことが難点です。そこで新しい造血細胞移植法として,骨髄内に造血細胞を直接輸注する骨髄内骨髄移植 法(intra-BMT)が池原進先生ら(関西医科大学)によって開発されましたが,従来の静脈内輸注法(iv-BMT)と比べ,GVHDが少なく,生着 も早い可能性が示唆されています。また,移植後に発生する肺障害は致命的な合併症ですが, Intra-BMTでは通常の静脈内輸注法(iv-BMT)よりも,肺に幹細胞がtrapされる率が低く,肺障害の発症が少ない可能性があります。我々 は,マウスモデルを使い,臍帯血でのiv-BMTとintra-BMTの比較や, intra-BMT後の肺障害について研究を進めています。
 

5) 同種造血幹細胞移植と後期糖化反応生成物受容体(RAGE)の関係
 マウスGVHDモデルにより現在明らかとなっているGVHD発症のメカニズムは、
  step 1)移植前治療によりホストの組織が障害され“danger signal”が発生
  step 2)“danger signal”により抗原提示細胞(APC)が活性化
  step 3)活性化APCによりドナーT細胞がエフェクターとなりホスト組織を障害
 が基本となる3つのステップです。 step 1)において移植前治療により引き起こされる“danger signal”としては、炎症性サイトカインと微生物特有の分子群PAMP (Pathogen-associated molecular pattern;病原体関連分子パターン)の役割が重要です。PAMPを認識するレセプターとしてTLR (toll-like receptor)やNLR (NOD-like receptor)などがあり、腸内微生物のグラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分LPSはTLR4を介してDCを活性化させます。このLPS-TLR経路はGVHD発症に重要であることがマウスモデルで証明されています。   “danger signal”には、外的要因(微生物)としてのPAMPに対し、内的要因(細胞障害など)の分子群はDAMP (Damage associated molecular pattern;ダメージ関連分子パターン) として大別されます。High-mobility group box 1 protein (HMGB-1)は、核内において転写調節に重要な核内蛋白質として知られていましたが、免疫担当細胞から能動的に細胞外に分泌、または細胞死に伴って受動的に細胞外へ放出されます。受容体としては、receptor for advanced glycation endproducts (RAGE)やTRL4などが知られています。GVHD発症の最初のステップでもあり、またGVHDの最終的な病態としての組織障害から引き起こされる“danger signal”として、これまで明らかにされてきたサイトカインとPAMPに加え、我々はDAMPであるHMGB1-RAGE系がGVHDや移植後合併症の病態に関与していると考え研究を進めています   。
 

コメントは受け付けていません。